総合職の先輩のキャリア

JP未来戦略ラボ 部長(日本郵政出向)
2008年入社

安部 耕太

民営化1期生の総合職として郵便局株式会社(現・日本郵便)に入社した安部は、データによる市場分析や会社統合プロジェクト、物流事業など多彩な経験を経て、現在は日本郵政に出向し、日本郵政グループの変革を推進する組織「JP未来戦略ラボ」を牽引している。

EPISODE 01 自分は何で貢献できるのか 真剣に考えれば、必ず見つけられる

埼玉県の郵便局で1年間、本社・営業企画部で2年間を過ごす。現場で何が起きていて、どんな能力を求められるのか、本社ではどうやって現場をサポートしているのか、安部は肌感覚と数字で会社の成り立ちを学んだ。

窓口事務は不慣れで苦戦したが
営業は工夫次第で楽しかった

安部は学生時代、文学部で文化人類学や文化コミュニケーションを学んでいた。コンテンツ制作関連のアルバイトをしていたこともあり、一般企業のほかに出版、放送、映画などのコンテンツ制作会社にも応募していたが、選考が進むうちに気持ちが変わった。

「面接で背伸びしている自分を感じたのです。そんな中で、最も自分らしく、自然体で話すことができた郵便局株式会社(当時)で働こうと決めました」

1年目は埼玉県の郵便局で窓口業務を担当した。郵便だけでなく銀行や生命保険の金融手続きも行う必要があったが、細かい規則通りに事務をこなすことが苦手で苦労した。先輩に迷惑ばかりかけていたので、なんとか恩返しをしたい。自分に何かできることはないか。真剣に考えてみると、新人の自分にもいろんなことができることに気づいた。

若いお客さまにこちらから声をかけて生命保険の案内をしてみると、意外に反応がいい。ポイントがお得になるメリットを伝えると、クレジットカードの契約者がどんどん増えた。

「窓口業務は、来局されたお客さまの用件に応えるのが第一ですが、プラスαとしてできることもあることを知りました。あくまでお客さまにとって役に立つという視点でお話してみると、必ず何人かは興味を示してくれるのです。営業は自分なりの工夫次第で、いろんなことができて楽しいなと感じました」

データ分析により、数字で
郵便局の営業特性が見えてきた

入社2年目、本社・営業企画部に異動した安部は、市場調査やデータ分析を担当することになった。エクセルすらほとんど触ったことのなかった安部が、GIS(地理情報システム)を運用、重回帰分析などを行うことになる。

「GISは専用のスタンドアロンPCがあり、使い方を先輩に教わりました。GISでは、町丁目ごとの人口動態、居住者の資産状況など、様々な市場データを一目で把握することができます。また、重回帰分析は複数の要因が結果に与える影響を分析し、結果を予測する統計学上のデータ解析手法の1つです。なにしろ文学部で、小説を書いたり映画を作ったりしていた学生時代でしたから、データ分析の素養などまったくなかったのですが、チャレンジしてみると、いろいろ面白いことが分かってきました。

安部が取り組んだのは、各地域の郵便局の営業特性分析だった。ひとくちに郵便局といっても、立地によって来局するお客さまのニーズは大きく異なっている。

「例えば昼間人口と夜間人口が異なると、郵便局の営業特性は大きく変わります。一般的な傾向では、昼間人口比率が多い地域の局では、物流窓口の利用が多い。一方、夜間人口比率が高い地域の局では、金融機関としてのニーズが高い傾向があります。同じ郵便局でも、力を入れるべきポイントが異なることが、データを通して明確に見えてくるのです。全国に多数の郵便局があり、物流、物販、銀行、保険といろいろなサービスを提供していて、かつ不動産価値の高い局もあったりする。なかなか他社では経験できない多彩な分析ができる、会社としての面白い側面を感じました」

EPISODE 02 多様なバックグラウンドを持つ 人材の厚みこそがポテンシャル

東日本大震災の復興支援で人間的に大きく成長、中国支社では多様なバックグラウンドを持つ会社としてのポテンシャルを感じた安部は、その後、2社統合プロジェクトに参加して日本郵便誕生に立ち会うことになる。

グループの仲間で支え合う
熱い心意気を感じた復興支援

2011年3月、日本は東日本大震災に見舞われ、東北地方を中心に大きな被害が生じた。騒然とする世相の中、同年4月、安部は中国支社に異動となる。引っ越しの荷物が3週間遅れで届くなど、日本全体が大混乱していた。広島に着任してほどなく、安部は津波被害の大きかった被災地・岩手県陸前高田・大船渡地区へ復興支援のために派遣されることになる。岩手県一関市に設けられた拠点に、復興支援のための社員が集まってきていて、一時は大広間のようなところで雑魚寝した。安部は毎日、一関から車で3時間かけて、被災地域に入った。地震・津波被害のため局舎は使えず、通帳や印鑑を失っているお客さまのために集会所や屋外の広場を借りて非常払いを行った。

「社員の方ご自身や家族・親族が行方不明になっている中で、私たちが遺体安置所を回る捜索活動にも携わりました。この支援を通じて、グループの仲間で支え合う熱い心意気を感じました。また、同期入社の仲間が東京の復興対策室勤務となっていて、物資の調整などで連絡を取り合うこととなり、心強く感じました」

復興支援業務に約1か月携わった後、安部は広島に戻り、本来の仕事に就いた。支社の一員として、担当地区の主に人事系の仕事をした。

「ここで驚いたのは、会社の中に多様なバックグラウンドを持った人がいることでした。例えば郵便局長に銀行や証券会社出身の人が少なからずいる。あるいは郵便、銀行、保険の各分野に強みを持つ人が営業のリーダーになっている。それぞれの得意分野で得た知識やノウハウを持ち寄って知恵を出す有機的な組織になっているのです。会社としてポテンシャルがあって、もっともっと力を発揮できるはずだ、と確信しました」

統合プロジェクトを経て
日本郵便の誕生に立ち会う

2012年3月、安部は急遽、東京に呼び戻され、会社統合の仕事を担当することになった。民営化の際に、郵便業務の会社として郵便局の運営を担う郵便局株式会社と、物流を担う郵便事業株式会社が設立されていたが、この2社を統合することになったのだ。安部は郵便局株式会社に作られたプロジェクトの一員となったが、当初、わずか数名のメンバーで構成されていた。

「形式上、郵便局の経営会社が変わることになるので、各郵便局において様々な行政手続きが発生します。また、郵便局は規模も立地も成り立ちも異なる多様な背景があり、局で扱っているサービスも従業員の規模も全然違う。局ごとに文書の出し分けをすると36種類の複雑な文書に分岐することが判明、各局で必要な行政手続きを取り違えかねないリスクがあることが分かりました。この対策として、局側がアクセスすると、その局が必要となる手続きが表示されるマクロをエクセル上で構築し、煩雑な作業をなんとか整理して前に進めました。そのほかにもやることは沢山ありましたが、統合まで約半年しかなく、時間との闘いでした」

統合前の2社では、カルチャーも異なっていた。

「郵便局株式会社は、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の業務を請け負っている関係で、調整型の仕事が多い印象でした。一方、郵便事業株式会社は物流事業の効率性を追求していく独立事業会社的な組織だったので、違いを感じる場面は少なからずありました。ただ、2社統合のプロジェクトに参加でき、日本郵便の誕生に立ち会えたのは、大きな喜びでした」

EPISODE 03 未来はパワポの中にあるのではなく 社員の泥臭い積み上げの先にある

入社以来初めてとなる物流事業を経験した安部は、現在、日本郵政に出向して「JP未来戦略ラボ」で、若手社員を牽引する立場にある。机上の空論ではなく、地道な実行を求める安部は、若手育成や新しい形態の組織構築にも意欲を燃やしている。

これぞ“ボス”と思える
外国人上司の言動に感銘

2015年9月、安部はオーストラリア・メルボルンに旅立つ。まさかのオーストラリア駐在となったのだ。安部は英語が得意なわけでもなく、国際的な知見があるわけでもない。国際物流会社に籍を置き、主にタンクローリーを使った輸送ビジネスの営業を担当した。年間数百万円から、中には数十億円にもなる取引先もあった。

「新入社員の頃、事務処理が苦手の自分に何ができるかと考えたことを思い出しました。英語が得意ではない自分に何ができるのかと。それで輸送レートの交渉材料となる係数を分析し、きっちり利益を出すための数字を算出することで貢献しました。もちろん、オーストラリア各地に出張し、物流最前線に足を運ぶといった場面もありました。外国人上司が、メンバーから“ボス”として慕われていましたが、その上司の「指示を押し付ける」のとは違う、メンバーへの気遣い溢れる言動にも感銘を受けました。マネジメントにおける1つの理想形として心に残っています」

4年半の勤務を終えて2020年3月に帰国した安部は、日本郵便のグループ会社で、フォワーディングなど国際物流を含む物流事業を担う会社の経営管理を担当することになった。計画と業績を月次で比較し、PDCAを回す仕事である。もともと物流の素人だった安部だが、数年のうちに海外を含む物流事業の知見を積み、成長していった。

アイデアだけで未来は語れない
汗をかいて実行してみよう

2021年6月、日本郵政株式会社に新組織「JP未来戦略ラボ」が立ち上げられ、安部は室長(2023年4月から部長)として出向することになった。JP未来戦略ラボは、現在、日本郵政グループ各社の約40人の若手社員で構成されている。既存の枠組みにとらわれない発想により、グループ横断的なシナジーを発揮し、変革を推進するための社長直轄の組織である。JP未来戦略ラボでは、マーケティング、新サービス、階層別マネジメント、人事戦略、フロント業務改革といった5つのキーワードのもとに、約30ものプロジェクトが組まれている。

「リーダー1人の持つ知見は、たかが知れています。中央集権的な組織ではなく、DAO*1のような柔軟な組織を作っていきたいと考えていて、1人の社員が複数のプロジェクトに参加し、アジャイル*2に動かしていく手法を採り入れています。前向きな“個”が集まり、集団として有機的に動き出せば、そのチームは強くなれるし、良いものを生み出せるはずです」

社員の発案をもとに若者向けの店舗「ズッキュン♡郵便局」*3を期間限定で渋谷にオープンしたところ、ユニークな取り組みとして話題になった。

「会社の未来は綺麗に作られたパワポの中にあるのではなく、社員それぞれの愚直な想いと、泥臭い積み上げの先にあるもの。アイデア提供だけでなく、メンバーが必ず汗をかいて実行することを求めています。成功しても失敗しても、自ら動いた経験は、必ず将来の役に立ちますから。それが未来戦略ラボという名前を背負った組織の果たすべき役割だと考えています」

*1分散型自律組織。特定のリーダーがいなくても事業やプロジェクトを推進できる組織形態を指す。

*2課題を小分けにして素早く実行・検証を繰り返しながら、プロジェクトを前進させる手法。

*3JP未来戦略ラボが、みらいの郵便局をテーマに社員からアイデアを募集したところ1,402件の応募があり、“KAWAII”をテーマにした作品が日本郵政社長賞に輝いた。この作品を具現化、相手のハートを矢で射抜くイメージから「ズッキュン♡郵便局」と名付けた。

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