お客さまが本当に必要としていることは何か
いつも考え抜いているから、仕事に誇りが持てる。
自分から行動を起こさないと
何も始まらない
窓口サービス部で銀行業務の基本を身につけた阿部は、お客さまの資産形成・運用をサポートするファイナンシャル・コンサルタントとしての道を歩みはじめることになった。
学生時代の阿部は、理学部化学科で学んだが、人とあまり接することなく、ひたすら研究に没頭するのは肌に合わなかったという。「やりがいのある仕事がしたい」、「お客さまのお役に立てるような仕事がしたい」という思いから、人々の暮らしに欠かせない“お金”を扱う金融機関への就職を希望した。
「エントリーシートを書いている、まさにその真っ只中に東日本大震災が起きた」。不安を抱えながらの就職活動ではあったが、希望がかなって、ゆうちょ銀行に入社、東京・池袋にある豊島店窓口サービス部に配属された。
窓口サービス部の役割は、ご来店いただいたお客さまに対して、ご要望されている手続きをすること。お客さまのご要望を的確に把握し、正確かつスピーディーに手続きを完了することが求められる。
だが、手続きに慣れない新人時代、お客さまを長時間お待たせしてしまう失敗をしてしまう。その時、阿部は後方事務を担当しており、窓口で直接お客さま対応したのは別の先輩社員。阿部に代わってお客さまにお詫びする先輩の姿を見て、「申し訳ない気持ちでいっぱい」になった。金融機関の一員としての基本の大切さを身に染みて感じた苦い思い出である。今も阿部の心の片隅に、この時の記憶が静かに眠っている。普段気にすることはあまりないが、新人指導をする時などに、ふと思い出すことがある。「身の引き締まる思い」を噛みしめると、新人指導にも、つい熱が入る。
1年半の窓口サービス部勤務を経て、阿部は豊島店渉外部の窓口FC(ファイナンシャル・コンサルタント)になった。FCは、お客さまのライフプランに合わせて、中長期的な視点から、資産運用のアドバイスをする仕事。ゆうちょ銀行の多彩な商品の中から、一人ひとりのお客さまに適したプランをご案内する。
「窓口サービス部は、来店されたお客さまに対してサービスを提供する仕事ですが、窓口FCはこちらから来店を働きかけて、予約していただきます。自分から行動を起こさないと何も始まりません」と阿部は言う。定額貯金の満期のお知らせを兼ねて電話をかけ、来店予約のご案内をする。「預けていただいている金額にかかわらず、声掛けをしています。お客さまと接点を持つ。まずはそこからです」と阿部は話す。
窓口FCは、店舗にある資産運用専用のブースでお客さまと向き合う。隣席と仕切られたプライベートな空間で、1時間から1時間半の時間をかけて、じっくりとコミュニケーションを図る。「最初からお金の話をすることはありません。初対面の人に、いきなり自分の財産の話は、誰だってしないでしょう。私は新潟出身なので、地元の話など自分のことを交えながら、お客さまのご家族、お仕事、お住まい、ライフスタイルなどについて少しずつ伺い、どのようなニーズがあるのかを考えていきます。将来、いくら資金が必要になるのか、お客さまご自身が気付いていない場合もあるので、丁寧にお話を伺うことが大切です」と阿部は語る。
ファイナンシャル・コンサルタントとして
責任感・使命感を
感じた瞬間
窓口での勤務から、お客さまのもとに直接伺うスタイルの仕事に変わった。お客さまからの要望や相談も高度になり、本格的にFCとしての実力が試されることになった。
入社4年目、阿部は同じ豊島店の所属だが、窓口FCから渉外FCとなった。窓口FCはお客さまに来店を促すが、渉外FCは原則、お客さまのご自宅を訪問するため、自身の活動範囲が一気に広がった。
訪問先は募集区と呼んでいる担当エリアにお住まいのお客さま。電話か手紙で訪問の予約を取り、足を運ぶ。「お目にかかり、時間をいただくためのハードルはありますが、諸先輩が築き上げた『最も身近で信頼できる』ゆうちょ銀行のブランド力があり助かっています」と阿部は言う。
渉外FCとして阿部は、あるお客さまから相続に関する相談を受けたことが印象に残っているという。配偶者に先立たれたお客さまから「夫に私の知らない兄弟がいた」、「兄弟から強く財産分与を主張された」といった内容だった。
「『相続』ならぬ『争族』となってしまったわけです。ドラマでしか見たことのない話でしたが、大切なパートナーを亡くされた直後でもあり、冷静さを保つのも難しいこと。税理士を間に挟んで話し合うように助言し、私としてできる限りの対応をさせていただきました」と阿部は振り返る。
「この件でさらに印象深かったのは、自分のご案内により、生前にご夫婦で、ゆうちょ銀行の商品の一つである変額年金保険にご加入いただいていたことでした。この商品は、生命保険などと同様、受取人を指定するため、遺産分割の対象外となる特徴があります。配偶者が、生前お客さまを保険金受取人にしていたことから、お客さまが全額保険金を受け取ることができ、お客さまからとても感謝されたのです。FCとして、一層責任感・使命感を感じた瞬間でした」と阿部は語る。
入社7年目、阿部はキャリアの中で一つの大きな転機を迎えた。入社以来、一貫して豊島店に勤務していたのだが、渋谷店に転勤となったのである。同時に課長代理の肩書が付いた。初めての役職である。
渉外FCとしての活動内容は豊島店と変わらなかったが、驚いたのは、お客さまのタイプがまるで違うことだった。阿部が担当したのは恵比寿・広尾といったエリアで、自営業・自由業のお客さまが多い地区だった。「ミュージシャン、アーティストといった、これまでの人生であまり触れ合ったことのない方々とお会いし、お話をさせていただくことは、とても新鮮でした」と阿部は話す。
多忙な富裕層の方の中には、「本題から話そう」といきなり切り出してくるお客さまもいらっしゃる。限られた時間の中で、有意義な話がしたいと考えていらっしゃることが伝わってきた。これまでの経験を生かしながらも、柔軟に話の順序を変えて対応しなければならなかった。
5人の部下を持つ役職になって、意識も大きく変わったと阿部は言う。「それまでは、『自分が自分が』という自分本位な思いがどこかしらありました。営業職ですから、アグレッシブな姿勢も大事なのですが、役職になると見えてくる風景が変わったのです。自分の数字よりは店舗全体の数字や、渉外部全体の数字をよくしたいという気持ちが強くなりました」。
どの道に進んだとしても、
いずれマネジメントの立場で
仕事がしたい
ファイナンシャル・コンサルタント・オフィサーとして豊島ブロック6店舗に所属する新人教育をになうことになった阿部。FC一筋で歩んできたが、今後は複数の道が考えられる。
ただ、目指すところは店舗運営の責任を持つマネージャーとして腕を振るうことだった。
2019年、入社8年目となった阿部は、渋谷店から再び豊島店に戻り、FCO(ファイナンシャル・コンサルタント・オフィサー)となった。豊島店は豊島ブロックに属し、豊島・練馬・光が丘・西東京・小金井・小平の6店舗で構成されている。FCOの役割は、FCを指導すること。中でも、6店舗に分散して所属する十数人の新人FCを指導することが中心となる。研修会を開いたり、一緒に資産運用に関する相談を行うための専用ブースに入って接客しながら教えたりする。比較的金融リテラシーの高いお客さまの多い店舗もあれば、これから資産形成をはじめるお客さまが多い店舗など、店舗によって特性もさまざま。「お客さまへ電話をかける際のデータの準備の仕方、お客さまとの話し方など、店舗やお客さまのタイプ、そしてFCそれぞれが持つ個性に合わせた指導が必要です」と阿部は話す。
阿部にはFCの頃から今まで、何よりも大切にしていることがある。それは「お客さまを自分の家族だと思ってアドバイスすること」だという。「短期的な目標達成のためだけに、がむしゃらに数字を追いかける営業スタイルだと、たぶん1、2年しか続きません。お客さまが本当に必要としていることを考え抜き、最適なプランを提示すること。その姿勢があるから、誇りを持って仕事ができるし、長く続けていくこともできる。就職活動の時に思っていた、やりがいのある仕事、誇れる仕事が、今まさにできていると感じています」と阿部は充実した表情を見せた。
FCOで人材育成について経験を積み、2021年、入社10年目立川店へ異動となり、BSS(ブロック・サポート・スタッフ)となった。
今度は立川店ブロックの営業推進や運営のサポートをするのが主な業務だ。店長をはじめ、各店の管理者と接する機会が増え、一層店舗のマネジメントに関わることができるやりがいのある仕事だ。更に本社や他エリアの社員など関わる人の幅が広がり、ゆうちょ銀行には多様な働き方があると改めて感じた。一方で「あらゆる部署とのパイプ役となることが求められるので、責任の大きさも痛感しています」と阿部は言う。
キャリアを振り返ってみれば、FCとして道を歩み、その経験を生かしながらも新しい仕事へのチャレンジが続いている。今後同じ道を歩み続けるのか、ローンサービス部、法人サービス部など、他の部署で働くことになるのかはわからない。ただ、阿部には夢がある。「どの道に進んだとしても、最終的には店長など責任ある立場でマネジメントの仕事をしてみたい」。
世の中は常に変化しており、ゆうちょ銀行に対するお客さまからの期待も同じではない。「どのような役職・立場であっても、その変化のダイナミズムを体感しながら、お客さまのために自分ができることは何か、考え続けていきたい」。穏やかではあるが熱のこもった口調で阿部はこう語った。